第3冊 嫌われる勇気~他人に嫌われても「自分」であるために~
たとえ嫌われても、自分の足で踏み出す「勇気」を持つ
- 読みやすさ ★★★☆☆
- 即効性 ★★★★☆
- 影響力 ★★★★★
- 他人が求める自分になっていませんか?
- アドラーってどんな方?
- ①今の自分は自ら選択したもの
- ②対人関係と向き合う
- ③自分の課題?他人の課題?
- ④対人関係のゴール「共同体感覚」
- ⑤共同体感覚を持つために必要なもの
- ⑥あなたは「いま、ここ」に生きていますか?
他人が求める自分になっていませんか?
勉強や仕事、家事など、日々やるべきことは多いです。そこでは当然、人間関係の悩みも多いと思います。その中で、自然と上司に嫌われないように、親に怒られないように、家族の機嫌をとるようにするため、いつの間にか他人が求める自分になっていませんか?
友の期待通り良い奴であろう、親の言うとおり勉強に励み、良い会社に入ろう、上司の期待通り従順な部下となろう、世間の求めるとおり結婚しよう。決して悪いことではありませんが、果たしてその人生は、自らが決め、自らの幸せのために生きる人生となっているのでしょうか。
ビジネス書籍の3冊目は、他人の評価に縛られず、自分の人生を幸せに生きる方法について、様々な教えが載っている『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(著:岸見一郎、古賀史健)を紹介します。
本書は、出自や学歴、容姿などについて、強い劣等感を持ち、自己嫌悪に陥る青年と、世界はシンプルであり、人は今日からでも幸せになれると説く哲学者との問答により、アドラー心理学を紐解いていっています。
タイトルから勘違いしがちですが、本書の「嫌われること」は、あくまで心持ちの話であり、内容は「自分の人生を幸せ生きる方法」に関するものとなっています。もしタイトルから何となく避けられてた方も、本記事を読んで少しでも興味をもたれたら、是非読んでみてください。
アドラーってどんな方?
アルフレッド・アドラーは、1990年初期のオーストリアの心理学者で、フロイト・ユングと並ぶ三大巨頭の一人です。医師としての一面もあり、1916年の第1次世界大戦では、軍医として従軍。多くの患者を見ていく中で、「共同体感覚」の重要性に気づき、大戦後に自身の個人心理学の基礎として広めていきました。また、アドラー心理学は「勇気」の心理学とも言われています。
それでは、自分が幸せに生きるのに必要な「勇気」を持つために『嫌われる勇気』の中身を見ていきましょう。
①今の自分は自ら選択したもの
本書では、フロイト的な「原因論」つまり、あらゆる結果の前には、原因がある過去がすべてを決定という考え方(例:過去のトラウマ(原因)があって前に進めない(結果))を否定するところから始まっています。
アドラーは、人は自らの目的に沿って生きているとしています。「目的論」つまり目的のために、自ら経験に意味を与えていると捉え、トラウマも「前に進まない理由(目的)として、過去の出来事をトラウマとして認識(経験に意味を付与)している」と言及しています。
また、「原因論」は、過去によって現在は決定されているため、今の自分にはどうしようもないとの考え方ですが、アドラーは「目的論」では、あくまでも目的に沿って自らが決めているため、人は今からでも変われるとしています。
あなたが、もし今変わりたいと思っていても変われないのだとしたら、それは、自ら変わらないという決心を不断に続けているのです。健康のために運動しようと思っていても始めないのは、仕事で疲れているから、気分が乗らないからなどと言い訳し、多少不都合(不健康)があっても、今のままのほうが楽だからと、始めない決断を「いま、ここで」しているのです。
「ライフスタイル(人生における思考や行動の傾向)」は、生まれつきではなく自らが選んだものです。つまり、再び選びなおす事も可能なのです。もし今、幸せを実感できていないなら、現在のライフスタイルを捨てる決心をし、今、自分がやるべきことに焦点を当てるライフスタイルに変えてみませんか。やれない理由(「やればできる」「もう若くない」「家庭がある」)をひねり出すのは終わりにしましょう。
②対人関係と向き合う
アドラーは人間の悩みは、すべて「対人関係の悩み」と定義しています。たとえば自分のことが嫌いなのは、他者との関係の中で傷つかないために、自分を好きにならない決心していることになります。お金の悩みも、「他者がいて、社会が存在すること」を前提に考えると、これも対人関係の悩みに含まれるのです。
対人関係で悩みの原因が「劣等感」です。「劣等感」は、人間の向上したいという気持ちに対し、「理想の自分」との比較から生まれるべきものですが、多くの場合、受験競争や就職競争など他者との比較の中で生まれてきています。
もし対人関係の軸に「競争」があると、他者(世界)は、常に自分をつけ狙う「敵」とみなすようになります。それではいつまでも対人関係の悩みから逃れられません。
他者を「敵」ではなく「仲間」とみなすようになるためには、アドラー心理学が掲げる目標を達成するために、人生のタスクと向き合っていかなければならないのです。
【アドラー心理学が掲げる目標】
行動面:自立すること、社会と調和して暮らせること
心理面:私には能力があると、いう意識、人々はわたしの仲間である、という意識
【人生のタスク(3つの絆)】
「仕事のタスク(仕事上での対人関係)」
「交友のタスク(仕事外の広い意味での友人関係)」
「愛のタスク(恋愛関係や親子関係)」
一方で、様々な口実を設けて、他人に責任転嫁して、これらの人生のタスクを回避することを「人生の嘘」と呼んでいます。
ライフスタイルを決めるのは自分自身です。人生のタスクに向き合うも目を逸らすも自分自身が決めるのです。
③自分の課題?他人の課題?
他者の期待を満たす自分であろうとするあまり、他者の人生を生きていませんか。アドラー心理学は、他者から承認要求を否定しており、他者から承認を求めてはいけないとしています。その理由には「課題の分離」という考え方があります。
「課題の分離」とは、「その選択の結末を最終的に引き受けるのは誰か」という観点で、「自分の課題」と「他者の課題」を分離する考え方であり、アドラーはこれを「対人関係の入口」としています。
自分は「自分の課題」に対し、「信じる最善の道を選ぶこと」が重要であり、その選択に対する他者の評価(好き、嫌い、良い、悪いなど)は、あくまで「他者の課題」であり、自分の課題とは切り離して考えるのです。
また、承認要求の不自由さから抜け出し、「自由」を手に入れる方法として「他者から嫌われること」を挙げています。これは決して嫌われる生き方をしろとか悪事を働けといっているのではありません。「幸せになる勇気」には「嫌われる勇気」も含まれており、他者の評価(嫌われること)を怖れず、承認されないかも知れないというコストを支払うことで、初めて自分の生き方を貫くこと(自由になること)ができるということを示しているのです。
④対人関係のゴール「共同体感覚」
「課題の分離」が「対人関係の入口」なら、「対人関係のゴール」は、どこにあるのでしょうか。このゴールをアドラーは、「共同体感覚(他者を仲間だとみなし、そこに「自分の居場所がある」と感じられること)」と定めています。ちなみに「わたしとあなた」がいれば、そこには既に共同体が存在するのです。
ここで覚えておく必要があるのは、「自分は人生の主人公であるが、世界の中心ではない」ということです。つまり自分はあくまで共同体の一員、全体の一部なのです。
では、「共同体感覚」に至るにはどうすればよいのでしょうか。それには対人関係を「縦」ではなく「横」で捉える必要があるとしています。相手を自分より低く見て介入するのではなく、自分の力で解決するのを援助すること、つまり課題の前に踏みとどまって言う一歩を踏み出させる「勇気づけ」を行うことが求められるのです。
「横の関係」で一番大切なのは、他者を評価するのではなく、素直に感謝を述べること。人は感謝の言葉を聴いたとき、自らが他者に貢献できたことを知り、自分には価値があると思え、勇気が持てるのです。自らの主観によって、「わたしは他者に貢献できている」と思えることが大切なのです。
では、他者の役に立てない人に価値はないのでしょうか?そんなことはありません。ここで、アドラーは他者の「行為」ではなく「存在」に感謝することの大切さに触れています。「育ててくれるから親は大切、一緒に遊んでくれるから友は大切」ではなく、「親が生きてくれていること、友がそばにいてくれることに感謝」するのです。
どれも言うは易し、行うは難しですが、アドラーはこう述べています。「誰かがはじめなければならない。他の人が協力的でないとしても、それはあなたには関係ない。わたしの助言はこうだ。あなたが始めるべきだ。他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく。」と。
⑤共同体感覚を持つために必要なもの
共同体感覚を持つために必要なものとして、「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」を挙げています。
「自己受容」とは、自己肯定(できもしないのに自分はできると暗示をかけ、自分に嘘をつく)とは違い、「変えられないこと(できない自分)」を受け入れ、変えられるものを変えていく(できるようになるべく努力する)勇気を持つことです。
「他者信頼」とは、信じることに一切の条件をつけず、他者を信じることです。信頼を裏切るかどうかは、他人の課題。課題の分離の観点からは、自分がどうするのかだけを考えるのです。他者を無条件に信頼し、踏み込む勇気を持つことで、初めて他者と深い関係を築くことができるのです。
「自己受容」と「他者信頼」により、他者を仲間と思い、共同体の中の自分を見出せるようになります。
さらに「他者貢献」、つまり仲間である他者に対して、何らかの働きかけをしていくこと、貢献しようとすることで共同体への所属感を得られるのです。
マーク・ザッカーバーグなどの大富豪は、お金の面ではもう仕事をしなくても問題ないくらい稼いでいるのに、なぜ仕事を続けるのか。それは、仕事を通じ、世界という共同体へ貢献することで、所属感を得るためなのです。
⑥あなたは「いま、ここ」に生きていますか?
これまで、「対人関係の悩み」から開放され、自らの人生を自分ものとして生きることの重要性とその方法に触れてきました。では、そもそも「人生」とは何なのでしょうか。本書では、「人生」を「連続する刹那」と表現しています。自分の人生は「過去」にも「未来」にもなく、「いま、ここ」の連続なのです。やるべきことを「時期が来たらやろう」と先延ばしにしていませんか?他人が決める「一般的な人生」に生きていませんか?
人生は、今この瞬間が本番です。仮の人生でもないですし、次の人生もありません。あなたは「いま、ここ」を真剣に生きているでしょうか。他者貢献という道標を胸に、再度思い返してみてください。「自分の世界」を変えられるのは、「自分」だけなのです。